【全文】NGT48・山口真帆さん暴行事件、第三者委員会調査報告書を公表「メンバーが関与した事実はなかった」

【全文】NGT48・山口真帆さん暴行事件、第三者委員会調査報告書を公表「メンバーが関与した事実はなかった」

NGT48の山口真帆さんが昨年12月に暴行を受けた事件について、同グループを運営するAKSは3月21日、第三者委員会からの調査結果を公式サイトで公表しました。報告書によると「NGT48のメンバーが関与した事実はなかった」としています。

山口真帆さん暴行事件、第三者委員会による調査結果を公表

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画像は山口真帆さんのTwitterより

NGT48を運営するAKSは3月21日、山口真帆さんへの暴行事件に関する第三者委員会の調査報告書を公式サイト上で発表しました。

AKSは「第三者委員会の報告書では、今回の事件に関する事実関係の認定がなされ、その中で、事件そのものにNGT48のメンバーが関与した事実はなかったとの判断がなされるとともに、運営上の不備が指摘されました」と報告。

かかる調査結果を厳粛に受け止め、第三者委員会からご指摘いただいた不備を改善することに全力で取り組みたい」「暴行を行った被疑者らに対して断固とした対応をするため、民事上の法的措置を検討しています」としています。

また今回の事件とは直接関係ないとしながらも、メンバーが私的にファンとつながりがあったことについて「特定のファンを優遇する行為として、不適切だと考えております」と見解を表明。しかし、「任を問われるべきなのは、組織運営に問題があり、スタッフ及びメンバーに対して、事前に明確な基準を示して適切な指導ができていなかった当社」とし、「今までのNGT48内での私的領域におけるファンとのつながりを含め、風紀の乱れ全般は、今回は不問に致します」と、ファンと私的交流のあったメンバーの処分は行わないとしています。

今後の方針としては、「話し合いを通じて、解決していくとともに、ファンとのつながりやグループの和を乱す行為等が発覚した場合は、運営として厳正な処分も検討していきます」とし、メンバーの安全対策を第一と考え、送迎時や住居の管理体制の強化、握手会の警備体制の強化、特定のファンとのつながりの発生阻止等を徹底するとしています。

なお、公開された第三者委員会の報告書は全34ページ。テキストやPDFではなく、すべて画像ファイルで公開されていたため、全文文字起こしし、以下に転載します。

「NGT48第三者委員会調査報告書」公表文

第三者委員会から、3月18日に、調査結果のご報告がありましたので、報告書の全文を公表させて頂きます。
第三者委員会の報告書では、今回の事件に関する事実関係の認定がなされ、その中で、事件そのものにNGT48のメンバーが関与した事実はなかったとの判断がなされるとともに、運営上の不備が指摘されました。

当社としては、かかる調査結果を厳粛に受け止め、第三者委員会からご指摘いただいた不備を改善することに全力で取り組みたいと思います。
また、二度とこのような事件が起きないように、暴行を行った被疑者らに対して断固とした対応をするため、民事上の法的措置を検討しています。

また、第三者委員会の報告書において、今回の事件とは直接関係はありませんが、メンバーが私的領域におけるファンとのつながりがあったことが挙げられており、当社としても、私的領域におけるファンとのつながりは、特定のファンを優遇する行為として、不適切だと考えております。
しかしながら、責任を問われるべきなのは、組織運営に問題があり、スタッフ及びメンバーに対して、事前に明確な基準を示して適切な指導ができていなかった当社であることから、今までのNGT48内での私的領域におけるファンとのつながりを含め、風紀の乱れ全般は、今回は不問に致します。
今後の方針としては、常にメンバーと向き合い、話し合いを通じて、解決していくとともに、ファンとのつながりやグループの和を乱す行為等が発覚した場合は、運営として厳正な処分も検討していきます。
あらためて、メンバーの安全対策を第一と考え、メンバーの送迎時の管理体制の強化、防犯体制の強化、メンバーが居住しているマンションの管理体制の強化、握手会における警備体制の強化、特定のファンとのつながりの発生の阻止等を徹底して参ります。
その上で、組織運営の強化、メンバー・スタッフへの教育の徹底、自覚を促して参ります。
NGT48を皆様にもう一度応援していただけるよう、健全な運営に取り組んでまいります。

以上

NGT48第三者委員会「調査報告書」全文

調查報告書

平成31年3月18日 株式会社AKS第三者委員会 委員長岩崎晃 委員木内雅也 委員高山稍

目次

第1 第三者委員会について
1 設置の経緯
2 本委員会の目的
3 本委員会の構成
(1)委員
(2)補助者
4 本委員会の調査
(1)AKSが所持する資料の引継とその精査
(2)書面回答による調査
(3)面談による事情聴取
(4)インターネット上の情報検索
(5)その他の調査の実施
5 調査の限界

第2 調査結果
1 本件事件について
(1)事実関係の特定
(2)本件事件へのメンバーの関与の有無
2 本件事件の背景事情
(1)AKB48グループとAKSについて
(2)NGTについて
(3)NGTのメンバーとAKSあるいはNGT48運営部との関係
(4)ファンとNGT48運営部の関係
(5)ごく一部のファンとメンバーとの関係
(6)新潟という活動拠点の特殊性
3 発生原因と対処
(1)はじめに
(2)被疑者らが山口氏の自宅を知っていたこと(事象1)
(3)被疑者らが山口氏が孤立する時間帯を知っていたこと(事象2)

第3 終わりに


第1第三者委員会について

1 設置の経緯

平成30年12月8日、株式会社AKS(以下「AKS」という。)が運営するNGT48(以下「NGT」という。)のメンバーである山口真帆氏(以下「山口氏」という。)が、新潟市内においてNGTのファンである男性2名から暴行を受けたとして、新潟県警察に対し被害届を提出した。これを受け、同月9日、被疑者である男性2名が新潟県警察に逮捕された(なお、被疑者2名は、同月28日にいずれも不起訴処分となっている。)。

上記事件は、NGTのファンがメンバーに対して行ったものであるところ、AKSとしては、その事実関係、会社関係者等の関与の有無及び程度、直接ないし間接の発生原因等の調査を、AKS及びNGT関係者との利害関係を有さない、専門的知見を有する第三者によって行う必要があると判断し、第三者委員会(以下「本委員会」という。)に調査を委嘱した。

2 本委員会の目的

本委員会は、AKSからの依頼に基づき、調査及び報告の対象を以下の事項(以下「委嘱事項」という。)とし、調査結果をAKSに対し書面にて報告することを目的としている。なお、本委員会が、委嘱事項を遂行する上で、さらなる調査が必要と認めた一切の事項について調査を実行することも、委嘱事項とされている。

【委嘱事項】

*下記事案の事実関係、会社関係者の関与の有無、程度、直接、間接の発生原因の調査(以下「調査」という。)

平成30年12月8日に新潟市内において発生したAKSが運営するNGTのメンバー山口氏に対する暴行事件(以下「本件事件」という。)

3 本委員会の構成

(1)委員

本委員会の委員は、表1「委員会の構成」記載のとおりであり、いずれもAKSと特別な利害関係を有していない。なお、本委員会の調査は、原則として、「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」(日本弁護士連合会)に準拠して実施することとした。

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(2)補助者

本委員会は、多数の関係者からの事情聴取等の調査を実施することを予定していたことから、男女各5名の弁護士(合計10名)を補助者として調査を実施した。なお、補助者10名は、いずれもAKSと特別な利害関係を有していない。

4 本委員会の調査

(1)AKSが所持する資料の引継とその精査

調査にあたって、AKSが所持する以下の資料の引継ぎを受け、内容を精査した。

ア 会社組織、NGTメンバー等に関する資料 イ 本件事件に関する資料 ウ その他メンバーとファンとの接触状況に関する資料など

(2)書面回答による調査

本委員会は、調査開始後、NGTメンバー全41名(AKB48との兼任メンバーの1名を除く)のうち38名(調査開始直後から、直接、事情聴取を実施することとしていた山口氏外1名、実施当日発熱のため参加できなかった1名を除く。)に対し、本件事件及びその背景事情等に関する認識の有無等を書面に記載する方法による調査を行い、対象者38名全員から回答を得た。

上記書面回答による調査は、NGTメンバーをそれぞれの事情に合わせて4カ所に分けて、概ね30分程度の時間を設定して実施した(AKS関係者は一切同席していない。)。また、上記書面回答による調査は、本委員会がNGTメンバーを含む関係者から事情聴取を行う前提としてNGTメンバーから本件事件自体のみならずその背景事情等についてどのように認識しているかを把握することを目的としたものであり、非公開かつAKS関係者にも開示しないことを前提とすること及び記名するか否かは選択できるものであることを告知した上で実施した。その結果、記名者24名、記名しなかった者14名であったが、そのいずれにおいても、対象者は、真摯に回答を記載していた。

当然のことながら、現時点までのみならず、今後も、回答が記載された書面及び記名、無記名の者が特定できる資料は、AKSを含め本委員会以外には一切開示しない。

(3)面談による事情聴取

本委員会は、調査対象行為の調査において、本件事件当時のメンバー42名、AKS役職員24名、メンバー及びAKS役職員以外14名の合計80名に対し、事情聴取を実施した。

事情聴取は、基本的に、委員ないし補助者の2名が一組(メンバーの聴取に際しては、2名のうち1名は女性とした。)にて、委嘱事項及びこれに関連する事項について、任意の供述を求める形で実施した。

また、事情聴取を実施した際に、各対象者の供述内容を裏付ける資料等がある場合は、その提出を求め、これによって提出された資料については、資料の形式を問わず、調査の対象とした。

なお、以下ではNGTメンバーのことを単に「メンバー」と表記することがある。

(4)インターネット上の情報検索

本件事件に関して、インターネット上における情報検索を行った。NGTをはじめとするAKSが運営するアイドルグループは、インターネット上の掲示板等において、メンバー独自のスレッドが存在するケースも多く、各種まとめサイト等においても数多くの記事が投稿されている。本委員会では、SNS、まとめサイト、各メディアの報道記事等に掲載されている情報についても、可能な限り検索し、調査した。

なお、インターネット上の情報の信用性については、本委員会において独自に評価している。

(5)その他の調査の実施

ア 被疑者らに対する調査

AKSは、本件事件における被疑者である甲及び乙(以下、甲及び乙を総称して「被疑者ら」という。)、並びに本件事件直後に被疑者らとともに山口氏と接触を持ったため本件事件に何らかの形で関わっていたことが疑われる丙に対し、平成31年2月19日付で、本委員会による調査への協力を求める旨を記載した書面を送付した。同書面は、平成31年2月22日及び同月25日に上記3名にそれぞれ配達された。その後、上記3名のうち丙からAKSに連絡があり、本委員会の調査に協力を行うか否かを検討する条件として、自らの出入禁止についてAKSが交渉に応じることを提示してきたが、AKSはこれを断った。他の2名からは何ら連絡はなかった。

その後、本委員会は、上記3名に対し、平成31年3月1日付で、調査への協力を求める旨を記載した本委員会委員長名義の書面をそれぞれ送付したが、上記3名からは何ら連絡はない。

イ 現地調查等

(ア) 本件事件の現場であるマンション (イ) NGT48劇場 (ウ) メンバーの移動経路、降車ポイント等

ウ 握手会視察

AKB48グループの握手会として参考にするため、他のグループの握手会を視察し、握手会の警備体制、運営状況、ファンの動静その他会場の状況を確認するとともに、主催者であるレコード会社所属の担当者から聴き取りを行った。

5 調査の限界

本調査は、いわゆる捜査機関が行う捜査と異なり、捜索・差押え等の強制処分を行うことはできず、それゆえ、これらを用いた、あるいはこれらを背景としたものではない。

また、本委員会における面談による事情聴取では、訴訟における証言と異なり、偽証に対する制裁はなく、対象者が真実を供述する客観的な担保はない。

第2 調査結果

1 本件事件について

(1)事実関係の特定

ア 前提事実

本件事件の概要は、山口氏が、平成30年12月8日のNGT48劇場における公演の後、メンバーを送迎するためのマイクロバスに乗って帰宅した際、居住するマンション(以下「当該マンション」という。)の自分の部屋に入ろうとしたところ、被疑者らから暴行を受けたというものである。

本件事件の事実関係を認定する前提として、以下の点をまず指摘する。

① 本件事件当時、当該マンションには、山口氏の他にもメンバーが居住していた。なお、従前、B(以下、山口氏以外のメンバーは大文字アルファベットで表記する。)も当該マンションに居住していたが、本件事件が起こる数か月前に既に退去している。

② NGT48劇場での公演後、NGT48劇場から離れたところに住むメンバーは送迎車両(マイクロバス)に乗って帰宅する。マイクロバスは、NGT48劇場を出発した後、数か所の降車ポイントの順に停車し、各メンバーは、自身の自宅への帰路に都合のいい降車ポイントでマイクロバスを降りる。

イ 山口氏の供述

本件事件及び本件事件後の経過に関する山口氏の供述は、以下のとおりである。

平成30年12月8日の夜の公演後、山口氏は、他のメンバーらとともに、NGT48劇場からマイクロバスに乗って帰宅した。

マイクロバスは、一つ目の降車ポイントで停車し、そこでAが降車した。

なお、山口氏は自ら経験した事実ではないが、後日、捜査機関などから聞いた事実として、1「Aが、降車後に、丙から、「まほほん、あの車両に乗ってる?」と声をかけられ、「乗ってるよ。」と答え、丙は、さらに「Eも乗ってる?」と聞き、Aは「乗ってないよ。」と答え、その後、丙は、Aから聞いた内容などを被疑者らに伝えた」という事実、2「甲は、山口氏の部屋の向かいの部屋を借りており、被疑者らは、山口氏の住む部屋の向かいの部屋で、丙からの連絡をもとに、マイクロバスの降車ポイントから山口氏が当該マンションに到着するまでにかかる時間を計算し、部屋から共用廊下の様子を確認しながら、山口氏が山口氏の部屋に帰宅するのを待った」という事実を述べている。

山口氏は、当該マンションから一番近い降車ポイントでマイクロバスを降りた後、当該マンションまで歩いて帰り、エレベーターに乗り、山口氏の部屋がある階でエレベーターを降りた。山口氏は、共用廊下に誰もいないことを確認してから、自分の部屋に入ろうとした。部屋に入ってドアを閉めようとしたところ、誰かが手でドアを押さえて、ドアをこじ開けてきた。山口氏は驚いてその人物の顔を見ると、それは乙であった。こは、玄関の中に入り、山口氏の顔をつかんで押し倒そうとした。山口氏は、必死で乙を押し返し、部屋から押し出そうとした。山口氏が、もう少しで部屋から乙を追い出し、ドアを閉められそうになった時、向かいの部屋から甲が出てきた。甲は、乙を横によけて、山口氏の顔をつかみ、押し倒そうとしてきた。甲は、山口氏の目と鼻のあたりを親指と人差し指で、山口氏の両こめかみを押さえるような形で、顔面をつかんだ。

山口氏は、しばらく声も出せなかったが、1分後くらいに「助けて」と共用廊下に向かって叫んだ。すると、甲は、手で山口氏の口を押さえてきた。乙は共用廊下にいた。その時、エレベーターが停まる音がして、被疑者らがその音に気付き、甲の勢いが止まった。そこで、山口氏は、甲を共用廊下に押し出し、山口氏も共用廊下に出た。そして、山口氏は共用廊下にしゃがみ込んで、泣き叫んだ。エレベーターから降りてきた男性が山口氏の方に来ようとしたが、乙が男性を静止して、ケンカしているだけと説明した。

山口氏は、携帯電話を首からかけていたので、警察に電話しようとしたが、甲に阻止された。山口氏が過呼吸になりながら泣き叫んだところ、甲が「ごめん、ごめん。」と謝って慰めようとした。これに対して、山口氏は、「近づくな。」などと叫んだ。

甲は、山口氏に対して、「メンバーにも相談して、メンバーに提案されて、やったことだから。」、「こうすればまほほんと話せるよと提案された。」と言い、そのメンバーとしてA、B、Cの3人の名前を挙げた。

その後、山口氏は、同じ階に住むEの部屋に行き、ドアをたたくなどしてEの所在を確認したが、反応はなかった。そこで、山口氏は、被疑者らにマンションの1階に下りるよう要求し、同人らは1階に下りて行った。山口氏は、一人になると、まずEに電話をかけたが、戻るのに30分かかると言われたため、Dに電話したところ、あと5分で行けるとのことだったので、Dを待つことにした。

山口氏は、Dと合流した後、被疑者らから、本件に関与しているメンバーを聞き出すため、Dとともに、1階に下りていた被疑者ら及びその頃までに同人らと合流していた丙とともに、近くの公園に移動した。

ウ 被疑者らの供述をはじめとする他の証拠

本件事件の事実関係を認定するにあたっては、上記の山口氏の供述の他に、被疑者らの事件当日の供述をはじめとする以下の証拠があるため、その内容について検討する。

(ア)録音データ

本件事件に関しては、複数の録音データ(いずれも事件当日のもの)が存在する。

そのうち、公園での会話内容を録音したデータ(以下「本件録音データ」という)における甲の供述内容は、次のとおりである。

① 本件犯行について、甲は、

  • 「ちょっとその声かけたんですけど。それでかなり驚かせちゃって。ぼくも焦ってけっこうその揉め合いみたいになっちゃって。」
  • 「お互いパニックになってたからちょっと押し合いみたいな感じになっただけでそんな押し入ろうとかは全然。」
  • 「ただちょっと廊下で声かけれればいいとおもったんだけど。」

と供述しており、甲は、山口氏と押し合いになった事実は認めている。

他方で、甲は、山口氏が「私のこと顔つかんで、顔押し倒してさ入ろうとしたじやん。」と発言したことに対し、「そこまではしてない。」と発言している。

② 本件事件に至る動機について、甲は、

  • 「山口さんとちょっと話したいみたいな、僕たちの間でなって。」
  • 「襲うつもりとかそういうつもりじゃなくて。」

等と供述して、山口氏と話がしたかったため山口氏に声をかけたにすぎず、その動機を超えて、山口氏の家に押し入ろうとか、襲うなどの意図はなかったと説明している。

また、甲は、当該マンション内で山口氏に声をかけた点については、以前より、当該マンション内で、他のメンバーと会うなどしていたことから、その延長線上で、山口氏が公演終了後に帰ってきた際に、外で話すより当該マンション内で声をかけたほうがいいと考えたと供述している。

さらに、山口氏から、「つながって、かかわってるメンバー全員いって。もうだれだれ言って、もういっかい。」と言われたのに対し、複数のメンバーの名前を挙げている。

なお、本委員会では、被疑者ら及び丙に対し調査協力を求める書面を送付したが、被疑者ら及び丙から事情聴取することができなかったことは前記のとおりであり、録音内容の真意及び信用性については検証できていない。

(イ)Aの供述

Aは、NGTの公演の終了後、降車ポイントでマイクロバスから降車し、駅に向かっていた際に、以前から握手会等で面識のあった丙から突然声を掛けられ、丙から、山口氏がバスに乗っていたかどうかを聞かれて乗っていたことを回答し、さらに、Eがバスに乗っていたかどうかを聞かれて乗っていないことを回答したと供述している。

なお、この点については、甲も、「今日A出てたから。それで聞いて。」と発言し、Aから、山口氏の帰宅に関することを聞いたことを供述している(本件録音データ)。

(ウ)当該マンションの賃貸状況の確認

当該マンションについては、不動産賃貸会社が運営するウェブサイト上で、当該マンションがマンスリーマンションとして賃貸されていること、本件事件の際、被疑者らが出てきた山口氏の部屋の向かいの部屋もマンスリーマンションとして募集がなされていること、当該マンションの部屋のうち、現在どの部屋が空室で賃貸できるかの一覧(部屋一覧)等が表示されていることを確認した。

この点については、甲も「そもそもあそこ、一部屋借りてて。」と述べており、当該マンションの部屋を以前から賃借していたことを認めている(本件録音データ)。

エ 捜査機関の捜査結果

被疑者らは、平成30年12月9日未明に暴行の疑いで逮捕され、その後、同月28日に不起訴処分となっている。

不起訴処分の理由は明らかではないものの、捜査を担当した新潟警察署刑事第一課の警察官の言動からは、態様はともかくとして被疑者らによる山口氏に対する暴行の事実は認定されているものと思われる。

オ 本委員会が認定した事実

以上の証拠及びその他関係者に対する事情聴取等により、本委員会が認定した事実は、以下のとおりである。

(ア)本件事件の事実関係

平成30年12月8日の夜の公演の後、山口氏は、他のメンバーとともに、NGT48劇場からマイクロバスに乗って帰宅した。

マイクロバスは、一つ目の降車ポイントで停車し、そこでAが降車した。Aは、降車後に丙から、山口氏がバス乗っていたかどうかを聞かれて乗っていたことを回答し、さらに、Eがバスに乗っていたかどうかを聞かれて乗っていないことを回答した。

その後、丙は、Aから聞いた内容などを被疑者らに伝えた。

甲は、本件事件当時、山口氏の部屋の向かいの部屋を賃借していた。被疑者らは、山口氏と会って話をしたいと考え、丙からの「山口氏はバスに乗っている。Eはバスに乗っていない。」という報告を聞き、同じ階に住むEと一緒ではなく、山口氏が一人で帰宅することを確認した上で、山口氏が帰宅した際に山口氏の部屋の玄関付近で声をかけることとし、マイクロバスが一つ目の降車ポイントに到着した時間から山口氏が当該マンションに到着する時間を計算して、向かいの部屋で山口氏の帰宅を待った。

山口氏は、降車ポイントでマイクロバスを降りたあと、当該マンションに向かった。山口氏は、20時40分頃、当該マンション正面玄関に到着し、そのままエレベーターに乗り、山口氏の部屋がある階でエレベーターを降りて、自分の部屋に入ろうとした。そして、部屋に入ってドアを閉めようとしたところ、被疑者らから、顔面をつかむ暴行を受けた。

(イ)暴行の態様について

暴行の態様について、山口氏は、「顔をつかまれ、押し倒されそうになった。」「顔をつかみ、押し倒そうとしてきた。」「目と鼻のあたり、親指と人差し指で山口氏の両こめかみを押さえるような形で、顔面をつかんだ。」と主張している。この点に関しては、山口氏が「私のこと顔つかんで、顔押し倒してさ入ろうとしたじゃん。」と発言したことに対し、甲は、「そこまではしてない。」と発言しているものの、山口氏の発言のうち顔をつかんだ点を明確に否定しているものではない。

以上を前提とすれば、山口氏は当初から一貫して被疑者らに顔面をつかまれたと述べていること、あえてこの点について虚偽の供述をする必要性がないこと(被疑者らを陥れる目的であれば、より強度の暴行態様を供述することも可能である。)、被疑者らは山口氏のこの点に関する供述を明確に否定していないこと等から、本委員会としては、被疑者らが共謀の上、山口氏に対して、顔面をつかむ暴行を行った事実が認められると判断した。

なお、本委員会は被疑者らに弁解の機会を与えるべく書状を差し向け本委員会の調査への協力を求めたが、被疑者らがこれに応じなかったことは前記のとおりである。

(ウ)本件事件後の状況について

本件事件後、山口氏は、同じ階に住むEの部屋に行ったが、Eは当時不在だった。

山口氏は、被疑者らに対してマンションの1階に下りるよう求め、同人らは下りて行った。山口氏は、Eに電話をかけたが、戻るのに30分かかると言われたため、21時15分頃に、Dに電話した。Dは、山口氏からの電話があった際、他のメンバーの自宅マンションにいたが、5分で当該マンションに行けるとのことだったので、山口氏はDを待つことにした。

Dは、当該マンションに向かう中、21時19分頃にマネージャーに電話をかけ、山口氏が襲われたらしい旨を伝えた。

Dがマンションに到着し、山口氏はDと合流した。その後、山口氏とDは、いったんDの部屋(Dも当該マンションに居住していた)に入り、Dは、再度マネージャーに電話をかけた(スピーカーフォンにて3人で会話した。)。山口氏はマネージャーに対し、被疑者らに本件事件に関与したメンバーを呼ぶように言ったところ、被疑者らが「Aが来る」と言っていることから、Aに話を聞きたいこと、マネージャーには被疑者らに気付かれないようにしてほしいことを伝えた。これに対して、マネージャーは、当該マンションの近くで待機する旨伝えた。なお、Aが被疑者らから呼び出された事実は認められず、実際、Aは当該マンションないし前記の公園に来ていない。

山口氏はDとともに1階に下り、マンションの外にいた被疑者ら及び丙(丙はこの時点までに被疑者らに合流した。)とともに、近くの公園に移動した。

21時41分頃、Dはマネージャーに対して公園の情報をLINEで連絡した。公園で、甲と山口氏がやり取りをする中、マネージャー3名がマイクロバスで到着し、それ以降は、同人らも居合わせる中で、マイクロバスに移動する等して、本件事件の関与者等について、主に山口氏と甲との間でやり取りがなされた。

その後、警察が到着し、翌9日に被疑者らは新潟警察署において、暴行の被疑事実で逮捕された。また、同日、山口氏の部屋の玄関ドアについて、警察による指紋採取が行われた。その後、被疑者らは、新潟地方検察庁に送致され、同月28日に不起訴処分となった。

(エ)補足

以上の事実認定は、山口氏の供述を元に行ったものであるが、前記ウ(被疑者らの供述をはじめとする他の証拠)及びエ(捜査機関の捜査結果)の証拠に加え、マネー ジャー及び他のメンバーも、これらの各事実に概ね沿う内容の供述をしている。

(2)本件事件へのメンバーの関与の有無

ア 山口氏の供述

山口氏は、平成31年1月8日のSHOWROOM上で本件事件について発信した上、メンバーの中に被疑者らと共謀して本件事件に関与したメンバーがいるとして、平成31年1月9日、ツイッター上で

  • 「あるメンバーに公演の帰宅時間を教えられ」
  • 「あるメンバーに、家、部屋を教えられ」
  • 「あるメンバーは私の家に行けと犯人をそそめかしてい」た(原文ママ)

とツイートしている。

また、山口氏は、前記(1)イに記載したとおり、本件事件直後に、甲が、A、B、Cから「こうすればまほほんと話せるよと提案された。」と発言していたとして、同3名が本件事件に関与しており、帰宅時間を教えたのがA、自宅の場所を教え屋に行けとそそのかしたのがCであると供述している。

さらに、山口氏は、Cについて、平成30年10月7日に行われた握手会の際に、甲から「Cがお前の家に行けってめっちゃ言ってくるんだけど。」などと言われたことや、新潟警察署の警察官から、甲が、当該マンションの他、新潟市内に3つのマンションを借りており、そのうちの1つがCが居住するマンションであると聞いたこと等を指摘して、本件事件への関与を主張している。

イ 被疑者らの供述をはじめとする他の証拠

(ア)被疑者らの供述(本件録音データ)

① Cの関与について

甲は、Cの本件事件への関与については、「Cは関係ない。」「Cは関わってない。」「Cちゃんは間違いなく今日知らないし。」と明確に否定している。また甲の他、丙も「このことをCとかに言ったりは全くしていない。」とCの関与を否定している。

② Bの関与について

山口氏の部屋番号などを知っていたことについて、甲は、「相当前にBか誰かに聞いたな。」、「握手会とかだから。」、「それはもう1年前とか。」、「最初どうやって知ったんだろう。」などと供述している。

また、甲は、甲自身は直接Bと連絡は取っていないものの、「Bは知っているかもしれないけど。」、「B知ってんのかな。」などと発言して、Bが本件事件について何らかの事情を知っている可能性を示唆する供述をしている。

③ Aの関与について

丙が、Aに対して、山口氏がバスに乗っているかどうかを聞き、Aが乗っている旨回答したことを認める供述はあるが、それを超えて、Aと被疑者らとの間で、本件事件について何らかの共謀があったことを示すような供述はない。

④ その他のメンバーの関与について

山口氏の部屋番号などを知っていたことについて、甲は、「あとFか。」、「Fは相当昔のことだから。俺もなんて言ったかわかんないけど。」と供述している。

また、そのほか前記(1)ウ(ア)2に記載したとおり、甲は、山口氏から「かかわってるメンバー全員いって。」と言われたのに対し、複数のメンバーの名前を挙げて回答して、本件事件に他のメンバーが関わっていたことを認める発言をしている。

なお、本委員会では、甲に対し調査協力を求める書面を送付したが、甲から事情聴取することができなかったことは前記のとおりであり、録音内容の真意及び信用性については検証できていない。

(イ)関係者(特に、関与を疑われたメンバー)の供述等

① Cの供述

Cは、本件事件への関与を否定している。

② Bの供述

Bも本件事件への関与を否定している。

③ Aの供述

Aは、本件事件について、丙から話しかけられたのに対して回答してしまったこと以上の関与は否定している。

④ その他のメンバーの供述

その他のメンバーについても、いずれも本件事件への関与を否定しているほか、A、B、C及びその他のメンバーが本件事件に関与していることを示す具体的な供述及び証拠は得られなかった。

ウ 捜査機関の捜査結果

新潟警察署の刑事第一課の警察官によれば、B及びCについては、警察官による事情聴取を行った上、必要な捜査を遂げたが、いずれも共犯として認めることができないため、事件として立件していないし、検察庁に対して送致もしておらず、既に本件事件に関する捜査は完了しているとのことである。

工 本委員会が認定した事実

以上の証拠及びその他関係者に対する聴取等により、本委員会が認定した事実は、以下のとおりである。

(ア)Cについて

C並びに被疑者ら及び丙は、Cの本件事件への関与を否定している。また、捜査機関による捜査の結果、Cについて立件、送致はされておらず、本件事件の捜査においても、Cの本件事件への関与は認められなかったものと推認される。その他、本委員会の調査において、Cが本件事件に関与していることを示す証拠を確認することはできなかった。

(イ)Bについて

Bは、本件事件への関与を否定している。また、捜査機関による捜査の結果、Bについて立件、送致はされておらず、本件事件の捜査においても、Bの本件事件への関与は認められなかったものと推認される。その他、本委員会の調査において、Bが本件事件に関与していることを示す証拠を確認することはできなかった。

(ウ)Aについて

Aについても、山口氏がマイクロバスに乗っているかどうかを回答した事実以上に、Aと被疑者らとの間で、本件事件について何らかの共謀があったことを示す証拠は確認できなかった。山口氏がマイクロバスに乗っていること等を回答したことは、対応として不適切であったものの、握手会などで顔見知りであった丙からマイクロバスを下りた際に、突然声をかけられたため、咄嗟に答えてしまったのが実情と考えられる。

(エ)その他のメンバーについて

その他のメンバーについても、本件事件に関して、被疑者らとの間で何らかの共謀があったことを示すような証拠は確認できず、よって、本件事件に関与した者がいたとは認められなかった。

オ 小括

以上のとおり、本件事件について、メンバーが被疑者らとの間で何らかの共謀をして関与した事実は認められなかった。

なお、被疑者らが山口氏の部屋を知るに至った経緯は、本委員会の調査に対する被疑者らの協力もなく、明らかではないが、甲は従前から当該マンションの別の部屋を賃借し、当該マンションに自由に出入りしていたのであるから、山口氏の帰宅を待って後をつけて入る部屋を確認したり、郵便受けの中を覗いて郵便物の宛名を確認したり、山口氏が郵便受けから郵便物を取り出すところを見たりするなど、メンバーの関与がなくても、被疑者らは様々な方法で山口氏の部屋を特定することが可能であったといえる。

2 本件事件の背景事情

(1)AKB48グループとAKSについて

ア AKB48グループの概要と組織

AKB48は、「テレビやコンサート会場でしか会うことができない」という従来のアイドルの固定観念を根底から覆し、結成以来、「会いに行けるアイドル」のコンセプトのもと、専用劇場(後記)での高頻度の公演・徹底したファンサービス(握手会・写真会等)でアイドルとファンとの距離を縮めアイドルをより身近な存在にする取り組みを継続して行っている。その後、AKB48の姉妹グループなどが順次設立されAKB48グループと呼ばれるようになり、現時点では、国内6拠点において活動するとともに、海外にも順次拠点を設置して展開している。

AKB48グループを運営するAKSは、平成18年1月20日に設立された、音楽著作物の利用の開発、コンパクトディスク、ビデオなどの原盤の企画制作、楽譜の出版、劇場の運営経営、各種式典・パーティ・会議・催事の企画立案及び設営等を目的とする株式会社で、役員は表3のとおりとなっている。

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AKSの組織機構は、図1「組織図」記載のとおりであり、取締役会の下、10部2室の体制となっている。なお、AKB48グループの一員とされる、NMB48及びSTU48については、別法人が独自に運営しており、SKE48についても、本年3月1日付で株式会社SKEが運営を行うこととなった。

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イ 株式会社Y&NBrothersに対する業務委託

AKSは、平成28年7月11日付で、株式会社Y&NBrothersとの間で業務委託契約を締結している。AKSの代表者、株式会社Y&NBrothersの代表者及び個人として業務委託契約に責任主体として名前が記載されている人物に確認したところ、委託されている業務の内容は、AKB48グループの活動のクリエイティブなプロデュース部分(具体的には、楽曲の提供、衣装、CDのジャケットなどを含む楽曲の発表に関する事項の決定、コンサートの企画、立案、組閣と呼ばれるメンバーの組換え等)であり、その余の部分(いわゆるAKSの組織上の行為、同社が運営するグループの運営、メンバーの管理、劇場の管理等)については、すべて、AKSが業務を遂行することとして定められていることが確認された。

(2)NGTについて

ア NGT

NGTは、日本国内に既に存在していたAKB48、SKE48、NMB48、HKT48に続いて結成された、新潟を本拠地とするグループであり、AKSにより運営されている。NGTは、平成28年1月10日にオープンした新潟市中央区にある専用劇場「NGT48劇場」を主たる公演の会場として活動している。

本件調査開始時点のメンバーは、第1において聴取の対象とした42名であり、その内訳は、チームNIII10名、チームG11名及び研究生21名である。

イ NGT48運営部

AKS内におけるNGT48運営部の本件事件当時のスタッフの構成は表3のとおりとなっている。なお、AKS管理部所属の人事総務グループに所属する1名が新潟に常駐している。

NGT48運営部の職務は、NGT48劇場での公演の開催及びこれに対するメンバーの参加を確保するマネジメントを中核とする。しかしながら、メンバーが参加するイベントは、NGT48劇場での公演のみならず、他のAKB48グループの専用劇場における公演、第三者が主催するコンサート・ライブその他の行事、テレビ、ラジオ番組等への出演、レコード会社が主催する握手会等への参加等多岐にわたっており、NGT48運営部は、NGT48劇場における公演以外のイベントの開催についても、一定の役割を担うことになっている。

また、メンバーのマネージャーは、チームNI、チームG、研究生に区分けされたメンバー毎に担当が割り振られており、上記各イベントへの参加の際にはメンバーに帯同するなどしている。

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なお、平成31年1月14日付で、前支配人は解任され、新支配人及び新副支配人が選任された。

ウ NGT支配人

AKSには、職務権限表が存在し、その中で、部長(支配人)の権限は、国内出張の承認、1件3万円未満の一般経費の支出、1件3万円未満の建物及び付帯設備、家具の改築・改修・修繕工事等の発注、建築付帯設備、システム・ソフトウェアの開発及び購入、1件100万円未満の事業部関連の事業に係るものの支出の権限が認められているが、経営自体に関わる事項、人事に関わる事項に関する権限は配分されていない。

AKSと前支配人とは、業務委託契約を締結していたが、その中で定められる前支配人の業務は、「1.NGT48劇場支配人の業務等2.その他前号に付随する関連事業等」であり、その内容については、「1.本件業務の内容の詳細については、都度、協議の上、定める。」と定められている。

もっとも、当該契約を受けて、前支配人に代表取締役、取締役等から権限委譲されることを示す規程や契約は、提示された資料の中から見いだせていない。

すなわち、上記職務権限表以外の部分について、規程や契約に基づいて前支配人に分掌されるべき職務、権限については具体的に定められていないし、誰の指揮・監督下で職務を行うのかも明らかにされていない状態であった。

エ マネージャー業務

AKSには、マネージャーが分掌すべき職務、権限に関する規程は存在していない。したがって、マネージャーがどのような職務を行うべき立場にあるのかは具体的に定められていない状況であった。なお、AKSとNGTのメンバーとの間で締結されている専属契約において、NGTのメンバーがAKSにマネジメント業務を委託する旨規定し、また、マネジメント業務の内容が列記されてはいるが、AKSがそれら業務を行うに際して、マネージャーがどのような職務を行うのか、それが誰の指揮・命令に基づくのかは定められていない。

(3)NGTのメンバーとAKSあるいはNGT48運営部との関係

ア 契約関係

NGTのメンバー42名のうち、39名はAKSとの間で専属契約を締結しており、他の芸能プロダクションに所属している3名については、所属するプロダクションとAKSとの間で芸能活動を行うに際しての契約を締結している(なお、両契約については、当事者がメンバー本人かプロダクションかという違いはあるものの、遵守事項、禁止事項等は概ね同趣旨である。)。

AKSとメンバーとの専属契約(全メンバーについて、基本的に同一の内容で締結されている。)においては、AKSがメンバーに対し、芸能活動に必要ないし有益な才能、資質、技術の習得・向上のためのレッスンその他の機会を提供することや、メンバーがAKSの指示に基づきレッスンを受講し、芸能活動を行うことが規定されている。

イ メンバーの芸能活動とAKS及びNGT48運営部による安全の確保

(ア)メンバーの芸能活動

通常のアイドルの芸能活動とは異なる「会いに行けるアイドル」としてのメンバーの芸能活動には、以下のようなものがある(ただし、6ないしのは、ファンと直接、接触するものではない。また、ファンとの接触を予定しないテレビ、ラジオへの出演、雑誌の取材等の活動については記載しない。)。

① NGT48劇場での公演

ファンは、NGT48劇場で開催されているメンバーによる公演に観客として参加することができる。ファンは、観客席からメンバーの公演を見ることとなるので、劇場公演において直接メンバーと接触することはできない。

もっとも、劇場公演終了後には、出演したメンバーが来場したファンのお見送りをしていたため、その際にファンからメンバーに声をかける程度の接触は可能である(なお、公演後の「ファンのお見送り」については、平成31年1月22日以降当面休止されている。)。

② NGT48劇場以外でのライブ・イベント

NGT48劇場での公演以外においても、NGTとしてライブ・イベント等を実施することがあり、ファンはこれらのライブ・イベント等に参加することができる。これらのライブ・イベントは、主催者がAKS以外となるため、劇場公演に比して、ファンの統制が取り難い面があった。

③ 握手会(全国握手会・個別握手会)

「会いに行けるアイドル」としてのAKB48グループを象徴するイベントであり、ファンは所定のCDに封入されている握手券を入手することによって、握手会に参加し、メンバーと直接握手、会話をすることができる。ファンがメンバーと握手、会話をすることができる時間は握手券1枚あたり何秒と、事実上、決められており、特定のメンバーと長時間接触することを可能にする、握手券の「まとめだし」という制度が存在する。

④ 2ショット写真撮影

ファンは、福袋の特典等で入手した券を使用することにより、劇場公演後に特定のメンバーと2ショット写真を撮影することができる。その際には、マネージャー等のスタッフが比較的近くに配置されている。

⑤ ボウリング大会

AKSが指定した特定のCDに封入されている応募券により申し込み、抽選に当選したファンがメンバーとチームを組み、メンバーと一緒にボウリングを行うことができる。

⑥ インスタグラム・ツイッター

各メンバーの公式アカウントにアクセスし、ファンは、当該アカウントの投稿に対してコメントを書き込む形にてメンバーとの接触を図ることができる。また、ファンからダイレクトメールをメンバーに発信することは物理的に可能であり、実際に多数のダイレクトメールがファンからメンバーに対して発信されているが、メンバーからファンに対してダイレクトメールを送信・返信することは禁止されている。

⑦ SHOWROOM

ライブ配信アプリ「SHOWROOM」を利用して、メンバーがリアルタイムにて動画を配信するサービスであり、ファンは、配信されている動画番組において、コメントをしたり、ギフティング(イベントを勝ち抜くためにメンバーが集める必要のあるポイントを視聴者が提供する行為で一部課金制)をする形で番組に参加し、その限度でメンバーとの接触を図ることができる。SHOWROOMでは、メンバーは、番組配信中にファンから寄せられたコメントにリアルタイムで反応することができる。

⑧ NGT48Mobile

NGTの公式サイト(月額課金制)であり、ファンは、会員登録することにより、劇場公演へのモバイル枠でのチケット応募、コンサートの優先チケット予約等をすることができる他、フォトログ(メンバーによる写真投稿コンテンツ)、オフショット、イベントレポート等のオリジナルコンテンツを利用することができる。

⑨ NGT48Mail

NGTのプライベートメールサービス(月額課金制)であり、ファンは、NGT48Mailに登録することにより、自らが選択したメンバーが一斉配信するメールを受信することができる。なお、メンバーが配信したメールにファンが返信しても、直接メンバーの個人携帯端末には届かないシステムとなっている。

⑩ 総選挙

AKB48グループの選抜メンバーを決める総選挙であり、ファンは、自らが応援するメンバーに投票することができる。投票券は、所定のCDに封入されている投票券1枚あたり1票(その他、公式有料サービスの会員等に付与される投票券も存する。)であり、1度に使用することのできる投票券の数に制限は設けられていない。ファンは、握手会等のメンバーと接触可能な機会に、メンバーに対して、自らが投票した事実や投票数を伝える等して、メンバーとのコミュケーションを図ることが可能である。

⑪ ファンレター・プレゼント

ファンは、メンバーに対して、ファンレターやプレゼントを直接渡すことは禁止されており、ファンレターについてはAKS所定の私書箱、プレゼントについてはNGT48劇場に送付ないし預けることとされている。ファンレター及びプレゼントについては、運営スタッフにおいて内容を確認の上、メンバーに渡すことができると判断したもののみメンバーに渡される。

(イ)AKS及びNGT48運営部のメンバーの安全確保に対する責務

上記のとおり、メンバーの活動は、NGT48劇場での公演のみならず、他のAKB48グループの専用劇場における公演、第三者が主催するコンサート・ライブその他の行事、テレビ、ラジオ番組等への出演、レコード会社が主催する握手会等への参加等多岐にわたっている。

各イベント会場におけるメンバーの安全の確保は、専属契約により、メンバーがAKSの指示に基づきレッスンを受講し、芸能活動を行うこととなっている以上、AKSの責務となることは当然である。

特に、「会いに行けるアイドル」を前提とするAKB48グループにおける安全の確保は、単に移動中の交通機関等による危険を回避するという点のみならず、劇場公演や握手会等ファンとの接触のある場所において要請されるものである。

(ウ)安全の確保が特に問題となり得る芸能活動と安全確保対策の現状

① NGT48劇場における公演

NGT48劇場における公演は、舞台と客席との境に段差がほとんどなく、安全の確保という点からは、特に、注意を要する芸能活動の一つであるが、NGT48劇場における公演の際の観客に対する禁止事項(「劇場内禁止事項」)が設けられていて、出入禁止についての規定も存在しており、規定内容について大きな欠点を見いだすことはできない。

② 握手会

握手会は、ファンとメンバーが至近距離に位置することから、上記公演活動とは異なる安全確保上の配慮が必要となる。

握手会は、レコード会社の主催により行われるものであるところ、レコード会社及びAKSが安全確保のための施策を講じた上で実施されているとのことであり、具体的には、以前握手会で発生した傷害事件を教訓として、金属探知機の使用、手元荷物をメンバーの近くまで持ち込めないようにする制約、危害を加えられそうになった場合にメンバーが容易に待避できるような配置、専門の警備員の配置が実施されている。 他方で、握手会においては、ファンとメンバーが会話をすることも可能であり、特に、握手券の「まとめだし」により長時間の会話がなされる場合には、会話の内容によっては(大声を張り上げるなど粗野な行為に及ばなくとも)、メンバーが精神的に傷つけられたり、ファンから私的な接触を求める発言をされたりする危険もある。メンバーの安全を確保する責務を負うAKSとしては、このような危険についても対処するために、会話内容を聞き取れる位置にマネージャー等のスタッフを配置し、場合によっては会話を制止するといった対応をとる必要もあると考えられるが、現状としては、上記危険に対処し得る形での人員配置はなされてはいない。

(エ)生活環境と安全の確保

メンバーは、芸能活動を行う前提として、日常生活を営んでいるのであって、日常生活に属する事項であっても芸能活動に関わる事項についての安全確保への配慮は必要であり、特に以下の点に関する安全の確保は必要不可欠である。

① 送迎

遠隔地でのイベントへの送迎については、その都度の事情があるため、本調査報告書においては、日常的に行われるNGT48劇場とメンバーの自宅との往復についてのみ触れる。

多くのメンバーは、NGT48劇場に集合する際には、各自自宅から歩いて新潟駅近くに設定された乗車場所に適宜集合し、AKSが用意したマイクロバスに乗って、NGT48劇場がある商業施設「ラブラ2」に向かう。また、帰宅時は、メンバーは、マイクロバスに乗って数カ所の降車場所で適宜降車し、その後は各自歩いて帰宅していた。

マイクロバスに乗車してからNGT48劇場内に入るまでと、NGT48劇場を出てからマイクロバスを降車するまでについては、安全確保のための様々な配慮がなされていることを確認したが、マイクロバスの乗降車場所は大きく変更されることはなく、また、複数のメンバーが乗降車する場合もあることから、ファン等にとってマイクロバスの乗降車場所の特定が容易な状況であった。なお、マイクロバスの運転手は提携先のドライバーであるが、マネージャー等のスタッフはマイクロバスには乗車していなかった。

② 自宅

メンバーは新潟県以外の出身者が多くおり、メンバーの居住するマンションは、NGT48劇場に通うのに便利な場所などの事情から、一定範囲に事実上限られ、一部のファンに後をつけられるなどして、住居が知れてしまうという事態が生じていた。

また、AKSにおいては、一旦、居住先を定めた後は、不審者の有無、これによる転居の必要性の有無等についてメンバーから積極的に事情を聴取するなどの対応は取られていなかった。

(4)ファンとNGT48運営部の関係

ア ファンの活動

(ア)一般的なファン

「会いに行けるアイドル」としてのNGTのファンは、当然のことながら、直接、自らがファンとなっているいわゆる「推しメン」に会うため、各種イベントに参加して、声をかけ、握手をして応援する。また、総選挙においては、「推しメン」に投票して、「推しメン」が少しでも上位にランクされることを望む。

(イ)ごく一部のファン

ごく一部のファンにおいては、多数いるファンの中の一人であることに満足できず、私的領域における接触(いわゆる「つながり」)を持つことを試みる者も存在した。

例えば、握手会において、「まとめだし」により得られた会話の機会を利用して、メンバーに対して、総選挙での大量投票を約束する、(実名を挙げて)他のメンバーもファンとつながっているから大丈夫等と、言葉巧みにメンバーとの「つながり」を求めたり、インスタグラムやツイッターでのダイレクトメールを要求する方法により「つながり」を求めたりする者が存在する。

また、送迎のマイクロバスを突き止めて後をつけるなどして、メンバーの住居を把握しようとする者もおり、実際に、多くのメンバーの居住するマンション名がファンの一部に知られていた。さらに、握手会の際にメンバーに対して「○○に住んでいるでしょう」などと言ってメンバーの反応を探ったり、メンバーが自宅においてSHOWROOMの動画番組を配信している際に自宅と思われるマンションの近くで大きな奇声をあげて、自宅の特定を試みたりする者も現れていた。

本件事件の被疑者である甲に至っては、当該マンションに複数のメンバーが居住していることを突き止めた上で、以前から当該マンションを賃借していた。

イ ファンとNGT48運営部との関係

(ア)ファンの迷惑行為と出入禁止

「会いに行けるアイドル」であるAKB48グループのメンバーは、専用劇場その他の場における公式イベントに「会いに」来てくれるファンとの触れ合いをメインとしてその活動を行っており、これはNGTにおいても同様である。

メンバーのファンの多くは、純粋にメンバーを応援し、応援のためにNGT48劇場をはじめとする各所でのコンサートに参加し、握手券などが付属するCDを購入して握手会に参加し、毎年1度実施される総選挙の際には、投票券が付属するCDを購入するなどして投票を行うのであり、NGT48運営部にとっては、NGTの芸能活動を行う上で、上記の「会いに行けるアイドル」の前提が維持される環境を用意することが重大な責務である。

他方で、ファンのごく一部には、他のファンや、公演中のメンバーの迷惑も顧みずに会場で奇声を発し、あるいは、粗暴な振る舞いに及ぶなどする者も存在するため、そのような者に対しては、各種イベントへの参加資格を停止する、いわゆる出入禁止(以下「出禁」という。)という措置をとることになる。「出禁」については、NGT48劇場の禁止事項の中で、禁止行為を行ったものに対して下される処分として記載されており、実際に、これまでも、「出禁」処分を下された人物は相応に存在する。

(イ)「まとめだし」と私的領域での接触

ごく一部のファンの迷惑行為は、NGT48劇場内における他のファンやメンバーに対するものに限られるものでなく、NGT48劇場外のイベントの際にも迷惑行為がなされることも十分に考えられる。

特に、握手会の際の握手券の「まとめだし」は、長時間握手しながら会話ができ、疑似の私的領域での接触の機会ともいえる状況になるところ、握手会の場において、ごく一部のファンから、私的領域において他のメンバーがファンと接触していること、この接触が握手券の売上や、総選挙における投票数につながっていることなどを暗に伝えられ、自らと私的領域において接触を持てば、同様に有利な立場になり得ることをほのめかされるメンバーもいた。

しかしながら、本件事件以前に、これらの行為に対して出禁の措置がとられた事例は、本委員会が検討した資料においては確認できなかった。

(5)ごく一部のファンとメンバーとの関係

ア 専属契約とメンバーの意識

前記のとおり、NGTは、AKSとの間で直接又は所属する芸能プロダクションを介して、芸能活動を行うに際しての契約を締結したメンバー42名が活動しているグループである。

メンバーとAKSとの間の専属契約では、メンバーに対して、「株式会社AKSの所属タレントとしての自覚と責任」のもとに、「一般社会人の品位を持って」行動することを求め、一定の事由が発生した場合には、AKSの側から契約を解除することができ、メンバーはこれに異議を述べることができないとされている。

メンバーのすべてが上記の内容を正確に理解していたかについては疑念が残るが、少なくとも、上記の内容は、メンバーが芸能活動をしてゆく上での重要なルールとなっており、特に、所属タレントとしての「自覚」という言葉は、メンバーが自らの行動を律するための一つの基準となっていたものと考えられる。

メンバーからの事情聴取によれば、所属タレント、すなわち、「会いに行けるアイドル」としての「自覚」という言葉を根拠に、メンバーは、私的領域でのファンとの接触は禁止されているものと理解しており、これを破ることは重大な違反行為であると認識していた。

イ つながり(及びそれを疑わせる事情)

上記のとおり、私的領域でのファンとの接触は禁止されていたものの、ごく一部のファンによる働きかけに対して、一部のメンバーは、私的領域における接触(いわゆる「つながり」)を持っていたことが、本件調査の中で、「噂」レベルではなく、具体的な事実として垣間見ることができた。

例えば、

① 丙と思われる男性から話しかけられ、何の抵抗もなく会話をしているメンバーがいること、しかも、その内容が他の複数のメンバーの現時点の行動に関するものである ② 丙と複数回個別に会っていたメンバーがいること ③ 甲が、山口氏の部屋の番号を知った経緯について、相当前に何人かのメンバーに聞いたと述べていること(本件録音データ。1ないしCについても同様) ④ 甲が、本件事件が発生することを知っていたかもしれないとして特定のメンバーの名前を挙げていること ⑤ 甲が、以前より、当該マンション内で、他のメンバーと会うなどしていたことから、その延長線上で、山口氏が公演終了後に帰ってきた際に、外で話すより当該マンション内で声をかけたほうがいいと考えて当該マンション内で山口氏に声をかけたと述べていること ⑥ 甲が山口氏と話すために山口氏の家に行くことについて相談していたメンバーがいるような発言をしていること ⑦本件事件後に、数名のメンバーがファンとの「つながり」があったとして自ら申告していること

というものである。ただし、3ないしCについては、甲の発言があったことは事実であるが、甲が本委員会の事情聴取に応じていないので、その真意・信用性については確認が取れているわけではない。

このほか、メンバーからの事情聴取の結果、確たる証拠はないものの、ファンから聞いた、あるいは、メンバー内の噂として聞いたとして、36名のメンバーから、他のメンバーとファンとの「つながり」に関する供述があった。その際、12名のメンバーの名前が具体的に挙がった。

ウ「つながり」とNGT48運営部との関係

(ア)支配人らによる認知と対応

上記イに記載したようなメンバーとごく一部のファンとの私的領域における接触、いわゆる「つながり」については、前支配人あるいはマネージャーが一定の範囲で認知していた(他のメンバーから伝え聞いた場合なども含む。)と思われるところ、1件については、調査は行ったようであるが正式な処分はなされていないし、それ以外の事案については、積極的に調査や対応を行っていた形跡は認められない。

(イ)「つながり」と契約

NGT48運営部が「つながり」について積極的に調査や対応を行わなかった理由については、「つながり」に対する具体的な処分規定が存在していないことが挙げられる。

また、専属契約には、不適切な男女交際を行った場合や、「AKSにおいてメンバーがAKB48(原文ママ)の一員としてふさわしくないと判断された場合」に契約を解除しうる条項が存在するものの、その解除事由としての「不適切な男女交際」は、「不倫」に匹敵するような行為を指すと考えるのが一般的であり、仮に、ファンとメンバーが私的領域で接触していた(「つながり」を持っていた)としても、この条項に直ちに該当するとはいえないし、また、「メンバーがAKB48(原文ママ)の一員としてふさわしくないと判断された場合」の意義が曖昧であり、「つながり」の事実一つを捉えて契約を解除することが正当と評価されるかは、必ずしも明らかではない。

そして、何よりも解除を含む専属契約に関する事項は、代表取締役の権限とされているのであるから、支配人が単独で判断できることではない。

(6)新潟という活動拠点の特殊性

ア 都市部が狭いこと

AKB48グループがそれまで存在していた東京、大阪、名古屋、博多といった大都市圏を有する地域と比較したとき、新潟は都市部が狭いことが特徴として指摘できる。

例えば、中高生から20代前半のメンバーと同年代の若者向けのファッションビルは、東京では渋谷・新宿・池袋など各地区に無数に存在するが、新潟ではラブラ(ラブラ万代及びラブラ2)など少数にとどまり、しかも、それらがNGTの劇場のある万代地区に集中している。

また、後記イのとおり、公共交通機関が発達していないことも相まって、多くのメンバーが一定の狭い範囲に居住することとなっている。

このような地域的な狭さが要因となり、アイドルとしての活動の場と、私的な生活空間との場所的隔離を確保することが極めて困難となっている。

イ 公共交通機関が大都市と比べて発達していないこと

新潟は、大都市と比較して公共交通機関が発達しておらず、電車の本数も少ないため、劇場の最寄り駅である新潟駅から電車に乗った先に一人暮らしをすることは現実的ではなかった。そのような場所に居住すれば、移動に時間がかかる上に、新潟駅や居住地の最寄り駅のホームに長時間滞在することとなり、特に公演の際にはよりファンの目に付き易くなることも想定されるからである。

そのため、物理的に狭い範囲に多くのメンバーが住んでいるという状況が生じていた。

このような中、NGT48劇場への往復では、公共交通機関の代わりに、AKSがマイクロバスによる送迎を行っていた。しかし、物理的に狭い範囲では移動経路をいくつも用意することもできず、大都市と比較して車の交通量や人通りも少なく、ファンがマイクロバスの外観を特定したり、発着場所を特定することも容易であった。そして、マイクロバスが到着する時間帯に発着場所で待機することによって、メンバーの“見送り”を行 ンが現れたり、メンバーの後をつけることで住居を知ろうとするファンも現れることとなった。実際、メンバーの中にはマイクロバスから降りた後にファンに後を付けられた経験を有する者もいた。

このように、公共交通機関が大都市と比べて発達していない特徴が、都市部の面積が狭いという特徴と相まって、移動経路の特定を容易とし、結果、住居が発覚しやすい状況となっていたといえる。メンバーや運営スタッフ等からのヒアリングにおいても、新潟であれば、メンバーの住居を特定しようと思えば、それほど難しくはなかっただろうとの感想が複数名から示されており、住居がファンに知られている、または知られているおそれがあると述べるメンバーが過半数にのぼった。

ウ ファンの絶対数が決して多くないと考えられること

大都市圏に所在するグループと比較して、ファンの絶対数も少ないと考えられ、多くのファンと触れ合うことが前提して活動しているにもかかわらず、少なくとも新潟での活動においては、特定少数のファンとの触れ合いが多くなっていた。結果的に、ファンと顔見知りになり、アイドルとしての活動の場と私的な生活空間との場所的隔離を確保することが極めて困難となっている状況と相まって、私的生活においてもファンと接触することを容易にする環境にあったと考えられる。

3 発生原因と対処

(1)はじめに

本件事件は、前記1(1)「事実関係の特定」に記載したとおり、NGTのファンである被疑者らの行き過ぎた行為が直接の原因である。そして、今後も、同様に行き過ぎた行為に及ぶ者の存在を否定することはできない。

しかしながら、本件が発生し得たのは、1被疑者らが被害者の自宅を知っていた、2U疑者らが被害者が孤立する時間帯を知っていたという偶然には起きえない事象が重なったからであって、それぞれの事象には、その原因が存在する。そこで、以下では、それぞれの事象が発生した原因を指摘しつつ、これに対してどのような対処をすべきかについて記載する。

(2)被疑者らが山口氏の自宅を知っていたこと(事象1)

ア 活動拠点の特殊性

そもそも、前記2(6)「新潟という活動拠点の特殊性」に記載したとおり、NGTの

活動拠点である新潟市は、他のAKB48グループの活動拠点に比べて都市部が狭く、しかも、安全面が十分に確保された賃貸マンションの数もさほど多くはない上、公共交通機関が限られているが故に、一人住まいをするメンバーの多くが一定の狭い地域に居住せざるをえず、ファンがメンバーの住居を特定しやすい環境にあることは否定できない。

上記のような環境であることは避けられない以上、AKSは、そのような環境にあることをよく理解した上でメンバーの住居の安全確保についての意識をよりべきであり、送迎時の危険の低減、居住先の管理等を行う必要がある。

イ 送迎時の危険への配慮が不十分であったこと

前記2(3)イ(エ)「生活環境と安全の確保」に記載したとおり、メンバーの送迎については、行きは一定の乗車場所に自宅から徒歩等で集合してマイクロバスに乗車して劇場等の会場に向かい、帰りは会場においてマイクロバスに乗車してそれぞれ指定された場所で降車して徒歩等で自宅に戻るという方法がとられていた。

新潟駅周辺を走行するマイクロバスの台数はさほど多くないと思われ、メンバーが乗っているマイクロバスは目立ち、追尾することは容易であるし、乗車場所・降車場所も大きく変更されることがないため、ファン等において、その場所で待ち伏せたり、その場所から尾行したりすることも十分に可能であった。しかも、マイクロバスには、AKS提携先の運転手が乗車してはいるものの、マネージャーの帯同はなく、マイクロバスを降りた瞬間からメンバーは全ての危険に自ら対処しなければならない状況にあった。

そのような状況の下、本件事件当日、メンバーがマイクロバス降車後に丙から声を掛けられ自ら応対した結果、山口氏らの乗車の有無について回答するに至っている。

以上のような状況であれば、ファンがメンバーの居住先を特定することは、さほど困難なことではないのであるから、AKSは、目立つ車両の使用を回避する、車両を複数にして分散して移動させる、乗車場所・降車場所を頻繁に変更する、待ち伏せなどを回避しうるよう、マネージャーを帯同させる等の対処が必要であった。

特に、マネージャーが帯同していることが常態であれば、ファンもメンバーの降車直後に安易に声をかけ、あるいは待ち伏せて尾行することはなく(制止されたり、後に何らかの処分を受ける可能性があるため)、今回のメンバーの言動は回避できたのではないかと思われる。この点、マネージャーに対して、このような職務及び後記ウに記載するようなメンバーの居住先に関する情報を管理することを前提としての執務を求めるのであれば、現状の人数では人員が不足していることも、ここで指摘しておく。

ウ メンバーの居住先の管理が不十分であったこと

上記イに記載するような対策をとったとしても、ファンは、メンバーの住居を突き止めようとするであろうし、完全に突き止められないようにすることは不可能であろう。

そうであれば、ファンに住居を知られた、あるいは、知られた可能性がある場合には、速やかに、メンバーに転居を促すなどして対策を講ずる必要がある。

また、メンバーの住居が知られたか否かは、メンバー本人だけでは、十分に把握することはできないため、前記2(3)イ(イ)「AKS及びNGT48運営部のメンバーの安全確保に対する責務」に記載したとおり、メンバーの安全確保を責務として負うAKSとしては、メンバーが居住するマンションの管理会社、管理人等と密に連絡を取り合い、入居者あるいは周辺で活動する者に不審者がいないか等について問い合わせる等して、危険発生の有無を定期的かつ継続的に確認することが必要であろう。さらには、当該マンションは一時期からマンスリーマンションとして賃貸されており、このこと自体、居住者の変動が多いことや信用調査の基準も低くなっていることなどを示しており、そのような事実が判明していれば、メンバーの転居も視野に入れるべきであった。

しかしながら、AKSは、前記2(3)イ(エ)「生活環境と安全の確保」に記載したとおり、そのような確認等は行っていなかったし、現実に、メンバーの居住先の情報を把握していなかった。メンバーが分散して居住しているため、全てのメンバーの居住先について安全性に問題がないかどうかに目を光らせ、情報を収集すべく活動することは困難であった事情もあるようにも思われるが、これに対しては、人員の増強で対応することが可能であるし、あるいは、そもそも、寮のような形でメンバーの居住先を1か所に集中させて管理するといった方法も検討の余地があると思われる。

また、補助的な方法であるが、既にメンバーの中には独自に連絡網(LINEのグループ)を作って不審な車両があれば写真に撮ってLINEで共有していた者もいるようであるから、そのようなメンバー自身が入手した不審者情報等をAKSにおいて集約する仕組み(そのような情報をマネージャーや支配人に伝達しやすい環境作りも含めて)を検討する必要もあろう。

(3)被疑者らが山口氏が孤立する時間帯を知っていたこと(事象②)

ア 前提

本件事件は、前記1(1)オ「本委員会が認定した事実」に記載したとおり、メンバーがマイクロバスから降車後に、丙から、山口氏がバスに乗っていたかどうかを聞かれて乗っていたことを回答し、さらに、山口氏と同じ階に住むメンバーがバスに乗っていたかどうかを聞かれて乗っていないことを回答したことが契機となっている。これによって、丙は、山口氏が同じ階に住むメンバーとは別に、一人で帰宅することを察知し、その旨を被疑者らに連絡して、連絡を受けた被疑者らが、マイクロバスの運行経路等から山口氏が帰宅のため当該マンションの共用廊下に現れる時刻を予測して待ち伏せ、本件事件が発生することとなった。

このように、私的領域において、メンバーと丙の間で、他のメンバーの私的領域に関する内容の会話が成立したことが本件事象2の原因となっている。

イ メンバーとファンとの私的領域に関する会話の機会の存在と対処

(ア)握手会での会話

握手会は、前記2(3)イ(ア)「メンバーの芸能活動」に記載したとおり、「会いに行けるアイドル」としてのAKB48グループを象徴するイベントであり、CD購入により入手した握手券1枚につき何秒という短時間、ファンがメンバーと握手することができるイベントである。そして、一部の握手会では、「まとめだし」と呼ばれる多数の握手券を一挙に提出して、特定のメンバーと長時間に亘って握手をして会話することができるという仕組みがある。 握手会の際の会話の内容については、主催するレコード会社により、誹謗中傷するような会話は禁止されているが、メンバーの私的事項に関する話題(特に、私的領域での接触を求めるようなもの)は明確には禁止されていない。

とはいえ、ファンとの私的領域での接触、いわゆる「つながり」は、前記2(5)ア「専属契約とメンバーの意識」に記載したとおり、所属タレントとしての「自覚」と「責任」の名において禁止されているのは自明であって、握手会はメンバーの芸能活動の場面とはいえ、私的領域での接触を求めるような会話は当然に許されるべきも のではない。

しかしながら、NGTにおいては、ごく一部のファンが、特定のメンバーと特定のファンが私的領域で接触していることを握手の相手となっているメンバーに伝え、自らともつながることを求めてくることが行われていたようである。例えば、前記1(2)ア「山口氏の供述」に記載したとおり、実際に、山口氏は、甲から、平成30年10月7日に行われた握手会の際に、「メンバーの一人がお前の家に行けってめっちや言ってくるんだけど。」などと言われたと述べている。

その真偽はともかく、このような私的領域での接触に関する会話が制止されることがない状況の下、丙は平成30年9月又は10月頃の握手会でメンバーの握手券を「まとめだし」して長時間に亘り会話をしていた。

以上のとおり、メンバーとごく一部のファンは、私的領域での接触はなくとも、握手会の「まとめだし」という方法を使って、私的領域に関する会話をすることができていた。本件事件の契機となった丙とメンバーとの会話は、握手会における「まとめだし」による長時間の会話によって、丙と会話すること自体に抵抗感が薄くなっていたメンバーが、マイクロバス降車後という私的領域において接触を求めてきた丙からの質問に安易に回答してしまったものと評価しうる。

このように、握手会において、ファンとの間での私的領域に関する会話が制止されることがなかったことが、ごく一部のファンのみならず一部のメンバーにおいて、私的領域において接触(会話を含む。)しても問題はないとの考えを持つに至らせる結果となったと考えられる。

(イ)握手会での会話の管理方法の改善

このような事態が正常なNGTの運営の妨げとなることは明らかなのであって、AKSとしては、これを回避する必要がある。そのためには、これまでNGTにおいては行われてはこなかったが、長時間の会話が想定される「まとめだし」の際には、マネージャー等がメンバーのすぐ横に立ち、会話の内容を確認し、誹謗中傷したり暴言を吐いたりという場合のみならず、私的領域に関する事項を話題とした場合にもすぐに制止する必要がある。そのために配置されるマネージャー等は、ファンの言動に敏感に反応しうるような相応の知識経験を有する人物である必要がある。また、この場合、その基準、ルールなどは明確に定めて厳格に運用する必要があるし、定めたルールについては、時間の経過とともに風化させることなく、継続的に運用してゆく必要があることは言うまでもない。

なお、このような体制をとることについては、握手会の主催者であるレコード会社やメンバーと短時間であっても親密に話をしたいと考えているファンからの異論や反対等も予想される。しかしながら、以前、AKB48の握手会で発生した傷害事件の直後に、金属探知機の採用、メンバー近くへの荷物の持込制限、握手する場所までの経路の変更等の対策を講じた際に、主催者のみならず、多くのファンがメンバーの安全を第一と考えることに賛同し、協力したという実績がある。この時のように、本件事件を教訓に、「まとめだし」の際に限った対応として、上記体制を採用することにレコード会社やファンの理解を得ることは不可能ではないと考える。

ウ つながり(及びこれを疑わせる事情)の発生原因と対処

前記ア記載のとおり、本件事件は、メンバー及び丙が、私的領域で接触したことを契機として発生したものである。また、前記1(1)ウ(ア)「録音データ」2に記載したとおり、本件事件は、被疑者らが山口氏と私的領域で接触したいという動機に基づき敢行された事案で、しかも、他のメンバーについても、前記2(5)イ「つながり(及びそれを疑わせる事情)」に記載したとおり、握手会におけるファンとの会話を超えて、ファンとの間で私的領域での接触を行っていた事象及びそれを疑わせる事情があることが本委員会の調査を通じて垣間見られた。特に、前記2(5)イ「つながり(及びそれを疑わせる事情)」で引用する本件事件直後の甲の発言や、実際に同発言のように丙と私的領域で接触していた者がいることからすれば、複数のメンバーが被疑者らのグループと私的領域で接触していたことも窺われる。

「つながり」の一次的な原因は、一般的なファンがメンバーと接触する機会である各種イベントでの応援活動、握手会への参加だけでなく、私的領域での接触を求めるごく一部のファンからの働きかけ(握手会における「まとめだし」の際の会話のみならず、ツイッター、インスタグラムのダイレクトメール等での働きかけなどに基づくものもある。)にある。

このようなごく一部のファンからの働きかけに対しては、メンバー自身がこれを拒絶するのみならず、NGTのスタッフによる対応も必要であると考えられる。

前記2(4)イ「ファンとNGT48運営部との関係」に記載したとおり、「会いに行けるアイドル」のファンは、劇場の公演、握手会などに参加して、間近にメンバーの存在を感じることが最大の目的となっている。それをさらに、私的な領域に広げようとするファンが存在することが本件事件の原因となっているのであるから、このような行為を行った者に対しては、劇場、握手会への出入禁止、いわゆる「出禁」の処分を科して対応することが極めて効果的である。

この点、NGTにおいて、前記2(3)イ(ウ)記載の「劇場内禁止事項」以外には、「出禁」に関する具体的な要件等を定めた規程はなく、前支配人や劇場スタッフ、マネージャーらは、特に劇場以外(握手会、イベント等)で迷惑行為に及ぶファンに対し、どのような場合に警告し「出禁」にすればよいか、また、どのような場合にこれらの措置を解除すればよいかという判断を場当たり的に行わなければならなかったようであり、 実際には、劇場チケットや入場方法に関する不正を働いた者や劇場での迷惑行為を行った者に対して、その都度、判断がなされて「出禁」の処分が科されているにすぎなかった。また、私的領域での接触を求めたり、実際に接触を行った者に対する処分については、そもそも本件事件までは検討したことがなかったようにも窺われる。

「出禁」がファンの行き過ぎた行為を防止する効果的な方法であることからして、メンバーに対し、私的領域での接触を求めたり、実際に接触したファンについては、「出禁」の処分を科すべく(あるいは、「出禁」の前段階としての警告を発するべく)、具体的な運用規程を作成し、支配人レベルで、速やかに当該支配人が担当する特定のグループのイベントに対する「出禁」等の処分を科すことができるような制度を整え、かつ、これを適正に運用してゆく必要がある。

さらに、これまでの出禁対象者のリストは、劇場スタッフが管理して専用劇場においてのみ使用しており、レコード会社が主催する握手会等のイベントでは当該リストの情報が必ずしも共有されておらず、専用劇場を「出禁」になったファンもAKS以外が主催する外部のイベントに参加することが可能であった。また、外部のイベントで迷惑行為を行ったファンの情報が劇場スタッフに共有される仕組みになっていなかったことから、当該リストはこうした迷惑行為を行うファンを十分には捕捉できていなかったのが実情である。

したがって、今後は、メンバーが参加するイベントにおいては、「出禁」の処分を受けたファンの情報(前段階として警告を受けた者の情報も含む。)は可能な範囲で共有し、既に「出禁」となっている者については、各イベントへの入場を制限し、かつ、過去に「出禁」となったことがある者(特に、私的領域での接触を求めた、あるいは、接触した者)を把握して、その言動に注視することで、本件事件の再発を防止する一つの 効果的な対策を講ずることができると考える。

エ メンバーの教育の必要性とその前提

(ア)メンバーの自覚の低さ

上記のようにファンが私的領域での接触を求める行為については、メンバーの側にも、私的領域での接触はしてはならないことであるという自覚と意識(前記2(5)ア「専属契約とメンバーの意識」)が明確に備わっていることが必要である。そのような自覚があれば、私的領域での接触を求めるファンに対しては、まずは、メンバー自身が明確に拒絶できるであろうし、そうでなければ、ごく一部のファンからの私的領域での接触の働きかけがあった場合に、マネージャー等スタッフに対して通報や相談をすることができず、結果として「出禁」の処分を科すことができないからである。

この点、本件事件で、メンバーが、丙に対してメンバー個人の動向を教えることの危険性を出嗟に判断することができず、安易に丙との間で会話をしてしまった背景にあるのは、ファンとの私的領域での接触禁止に関する自覚、意識が低かったからであると評価せざるを得ない。

また、残念ながら、本件調査を通じて、本委員会としては、前記2(5)イ「つながり(及びそれを疑わせる事情)」に記載したとおり、ごく一部のファンと一部のメンバーとの間で私的領域での接触が行われていたことを否定することは難しいと考えており、さらに、多くのメンバーがメンバー内にファンと私的領域での接触を行っていた(行っている)者がいると認識していた(ないし疑っている)のも事実である。

(イ)メンバー教育の必要性

メンバーの自覚・意識の低さの原因の一つには、ファンとの私的領域での接触がなぜ許されないことなのか、また、発覚した場合にどのようになるのかが明確に意識されていないことが原因ではないかと思われる。 「会いに行けるアイドル」は、劇場などのイベントでファンと接触することが活動の中心なのであって、一部のファンとの私的領域での接触は、本来のルールを守っているファンへの裏切りに該当するから許されないということを、メンバーが何処まで正確に理解しているのかを疑問に思わざるを得ないような状況にある。

NGTのスタッフは、メンバーの専属契約の規定上、「株式会社AKSの所属タレントとしての自覚と責任」の下に、「一般社会人の品位を持って」行動することを求められている以上、メンバーが私的領域でファンと接触しないことは、当然の帰結であると述べる者がほとんどであった。しかしながら、メンバーは、全員がNGTのスタッフよりも若年である上、中には、義務教育を受けている最中の者もいるのであって、そのようなまだ若く人生経験が浅いメンバーに対する丁寧な説明は不可欠と思われる。加えて、ファンと私的領域で接触することで総選挙での獲得投票数や握手券購入実績を増やせるかもしれない、あるいは私的領域での接触を無下に断ればファンが離れてしまうかもしれない、という弱みにつけ込まれる要素が極めて大きい以上、メンバーに対して、そのようなことは真実ではないし、そのようなことによって自らのアイドルとしての地位が確立できるものではないことも含め、NGT加入時に限らず定期的かつ継続的に説明することが求められる。

したがって、NGTのスタッフは、メンバーに対し、改めて、一部のファンとの私的領域での接触が禁じられる理由について、正確な理解と納得を得られるまで説明を行う必要がある。 また、これに反した場合の処分については、そのことをもって直ちに契約を解除されるというものではないが、専属契約では「すべての事情をAKSが総合的に考慮した結果、AKSにおいてメンバーがAKB48(原文ママ)の一員としてふさわしくないと判断された場合・・・ただちに契約を解除することができる。」と規定されており、この「総合的」な「考慮」の一要素として料酌されて、契約を解除されるリスクがあることを明確に伝える必要がある。

なお、私的領域での接触について、メンバーに対する一定の禁止規程を設けて違反者は処分するという対処も検討に値する。ただし、その場合、何を私的領域での接触 と認定するのか、どのような処分をするのかなどについて、精緻な議論を行った上で規程を設ける必要がある。もっとも、その規程の運用については、対象となるメンバー間で平等になされる必要がある上、処分をする際にはまだ若く未来のある当該メンバーの将来(アイドルを辞めたとしても、処分を受けたことがインターネット上の情報等として残る)への配慮が必要となるのであって、都度、個別具体的な事情を踏まえての処分決定の判断に際しては、困難が伴うことも想定される。

(ウ)マネージャー等スタッフ養成の必要性

「つながり」を未然に回避するためには、上記(イ)に記載したとおりメンバーの教育が不可欠であるが、それととともに、マネージャーをはじめとするスタッフの養成も必要と考える。NGTのマネージャーの中には、メンバーやファンに対して関心が薄い者もいるようであり、本委員会の意見としては、それを是正せよというレベルの指摘をするものではなく、AKSとして、年少あるいは若年のメンバーにアイドルとしてあるべき姿を教え導ける存在としてのマネージャーの養成が不可欠であるという指摘である。

若い女性が、「会いに行けるアイドル」という極めて微妙な立ち位置において、「自覚」と「責任」を持って活動することに困難を伴うということは、本委員会の調査を通じても痛切に感じるところである。そのような中、メンバーが芸能活動を続けてゆくにあたっては、私的領域での接触が禁じられる理由について、マネージャー自身が正確に理解し、メンバーが正確に理解し納得できるまで丁寧に説明を行い、折にふれて、メンバーにその自覚を促すことが求められる。そして、メンバーがファンと私的に接触しそうになった場合や、ファンからそのような接触を受けた場合に正しい対応をする方向に教え導くためには、メンバーの良き指導者・良き相談者としてのマネージャーの存在が不可欠であると思われる。

しかしながら、残念なことに、NGTのマネージャーの中には、自らにそのような役割が求められていることを明確に意識していない者がいるようにも見受けられた。そのため、メンバーから、他のメンバーがファンと私的領域で接触していると相談された場合、「証拠がない」などとしてこれに取り合っていなかったことや、メンバーからファンとの私的領域での接触を告白されていたにもかかわらず、マネージャーは何も対処しなかったことがあった。その結果、メンバーの中にはマネージャーに相談しても何も解決しないと考える者が存在していた。

このことは、まず、前記2(2)「マネージャー業務」に記載したとおり、AKSにおいて、マネージャーの業務に関する明確な規程がないことが原因と考えられる。マネージャーがどのような職務を負うのか、誰の指揮・命令に従う必要があるのか明確に定められていない中では、マネージャー自身、支配人の指示に従って言われたことをやっていればいい、あるいは、目の前にあることを処理していればいいという考えに陥りやすいことは否定できず、NGTにおいても似たような状況に陥っていたのではないかと推測することができる。

だとすれば、まずは、マネージャー業務に関する明確な規程を設け、その権限や役割を明確化することが早急に対応すべき事柄と考えられる。

規程の設置に加え、これを実効的に運用するためには、マネージャーに規程に従った業務を行うよう教育することも必要となる。

特に、本件事件当時の前支配人が、マネジメントを専門とする人物ではなく、マネージャー教育のあり方、実践に精通していなかったことも原因として挙げられるが、それ以上に、AKS自体に、マネージャーを養成すべき部署が存在せず、全てが現場での判断の蓄積で行われていたことにも起因していると考えられる。

直ちに、自社において、そのような部署を設置することには困難を伴うとは思われるが、早急な対応が必要であり、これを怠ることは、マネージャーとメンバーとの間の信頼関係が築けず、かつ、メンバーの教育が十分に行いえないことを意味し、その結果、ファンとの私的領域での接触のみならず他の面でも不適切な事象が発生する危険をはらんでいる。

(エ)支配人の役割の明確化

支配人は、NGT48運営部を束ねる存在であり、組織の長としての意思決定を行う立場にあり、かつ、部下であるNGTスタッフの指揮監督を行うのみならず、メンバーが十全な芸能活動を行いうるよう、その安全面も含めて管理する立場にある。

しかしながら、前記2(2)ウ「NGT支配人」に記載したとおり、AKSにおいて、支配人に関し、その立場の裏付けとなる職務の範囲及び権限を具体的に定める規程類の整備状況は極めて不十分であり、唯一「職務権限表」と題する規程が存在するのみであった。

その一方で、AKSと前支配人とは業務委託契約を締結しており、その中で定められた前支配人の業務は、「1.NGT48劇場支配人の業務等2.その他前号に付随する関連事業等」と規定されているだけで、その内容については、「1.本件業務の内容の詳細については、都度、協議の上、定める。」とされており、これは、解釈のしようによっては、大きな権限が前支配人に与えられているようにも読める規定である。

また、AKSの職制上、支配人に対する指揮監督が、誰によってなされるのか(仮に取締役だとして誰なのかなど)は定められていなかった。

以上のような状況の下、メンバーに関して発生した事象について、前支配人は、業務の処理を行ってきたのであるが、マネージャーを超えて、メンバーから直接前支配人に相談を持ちかけられることも多く生じ、前支配人自身もそれを許していたこともあって、結果的に、発生した事象の詳細を正確に理解せず、あるいは、他の事象への対処との均衡を必ずしも正確にはかることなく判断を行っていると、メンバー、あるいはマネージャー等スタッフから評価されることが多かったようである。

また、上記のとおり前支配人を指揮監督する役員等に関する具体的な規定がないため、前支配人自身も誰にどのように相談すればいいかわからないまま、自らのみで判断せざるをえない状況が多く生じていたと思われ、メンバー、あるいはマネージャー等スタッフから、この点を捉えて独断していると評価される場面もあったようである。

特に、ファンと私的領域において接触した(「つながり」をもった)メンバーの処遇については、「証拠がない」とだけ言って、申告を排除し、それ以上、調査を行わずにいたようであるし、逆に、「証拠があれば処分するのか」との問いかけに対して、前記のとおり、契約上、簡単には解除ができないし、何らかの処分権限が認められているわけではないにもかかわらず、「処分する」と回答するなど、その場しのぎの対応をする場面もあった。このような場当たり的な対応が行われてきたことが、一面では行き過ぎたファンの活動を助長し、一面では、メンバーのファンとの私的領域での接触を持ってはいけないという自覚・意識を希薄にさせる要因となった可能性も否定できないところである。

これらは、支配人の個性により生じている部分も全く否定することはできないが、それ以上に、支配人の職務内容、権限、指揮監督者などが具体的に定められていないことが原因であったと評価すべきである。

現実に、一つの劇場の支配人の職務は、劇場の運営、スポンサー企業との折衝、マネージャー等スタッフ、メンバーの指揮監督など多種多様にわたり、その職務権限の明確化、責任の所在、指揮監督系統などを明確に定めなければ、適確な業務遂行はできないのであって、AKSとしては、早急に、前記(ウ)のマネージャー業務に関する規程とともに、支配人に関する規程を設置し、その役割分担等を明確にし、メンバーも含めて周知徹底して、その適切な運用がなされるよう努める必要がある。

第3 終わりに

本件事件については、事件が発生してから1か月が経過した平成31年1月8日から9日にかけて、山口氏がSHOWROOM、ツイッターから、本件事件で被害に遭ったこと、本件事件にはメンバーの関与が疑われること、前支配人をはじめとする運営側が十全に対応してくれていないことを発信した。

その後、AKSは、同月14日になって前支配人を(事実上)更迭し、新支配人及び新副支配人を選任して、記者会見を行った。

本件事件は、第2の1「本件事件について」に記載のとおりの事案であり、結果として、山口氏自身は生命、身体に重篤な損傷を受けずに済んではいるが、一つ間違えば、深刻な被害が発生してもおかしくない事案であった。このような事案が発生した以上、AKSとしては、山口氏自身の安全の確保のみならず、今後、他のメンバーに同様の被害が生じないように策を早期に講じる必要があったのであり、その前提としては、山口氏をはじめとする関係者からの事情聴取などを早急に実施する必要があった(12月28日までは本件事件について捜査が行われていたから、捜査の支障にならない範囲でという限定はあろうが。)。かかる必要性は、山口氏に対する暴行があった以上、被疑者らに対する刑事処分が如何になろうともその影響を受けるものではない。

そのようなことが行われないままに、本件事件から1か月が経過し、山口氏が上記発信をするまでAKSにおいてこれらの対応をとらなかった理由は、まさに、AKS取締役会に対して、本件事件が深刻な事案であることが正確に報告されておらず、そのためAKS取締役会としては、大きな問題をはらむ事案であるとの判断を行わず、対応をNGT48運営部、特に前支配人に委ねてしまっていたからであると思われる。だからこそ、山口氏の上記発信後、支配人の更迭、新支配人の選任という重大な決定がなされたのであろう。

本委員会としては、本件事件のようにメンバーがファンに襲われるというような事案(それに限らず、何らか重大な案件)が発生した場合に、各部・室から、AKSの取締役会(あるいは、担当取締役)に対して、発生した事実関係が適時、適切に報告され、AKSの取締役会(あるいは、担当取締役)において適切な対応策を検討してその判断結果に基づいて対応者を指名して対応策を指示し、さらには、指示を受けた者から指示した者に対して適時、適切な報告がなされる体制を構築する必要があると考える。

対応の遅れがメンバーを含む利害関係人からの信頼を損ない、事態をさらに深刻化させるおそれがあり、また対応が取られない間に同種の事件が再発する危険もないとは言えないからである。

なお、AKSは、第2の3「発生原因と対処」において記載した点も含めて規程が整備されておらず、職務の範囲、権限などが不明確な点が多い。これは、当初、小規模で始めた事業が瞬く間に拡大した結果、組織が膨張し、制度、規程の整備がこれに追いつかなくなったことが原因であろうと思われる。本委員会としては、AKSの役員に対して、他にも原因があるのであればその点の究明も含めて、早急に、現在のAKSの実態に合わせた制度、規程を整備して、役職員に周知し、かつ、これらが実効性を持って機能し、企業の運営が健全になされるよう努めることを望む。

以上